以下
第71回国会 衆議院 法務委員会 第13号 昭和48年3月30日からの引用は、刑事補償法と被疑者に対する補償を巡り議論が行われた部分である。
>検察官の不起訴処分というものを見てまいりますと、罪とならずとか嫌疑なしの理由で不起訴処分にした場合、これに対して補償請求権を認めるとすることは、検察官が行ないますところの不起訴処分に裁判所が言い渡します判決と同じような公の確定力を与えるということになるわけでありまして、それは不起訴処分というものの実質から考えましてどうもそういう確定力を与えるような処分ではない。たとえて申しますれば、不起訴というのは一応の処分ではございますけれども、証拠が集まったという場合にはさらに公訴提起ができるわけでございまして、その後の情状を見て起訴を猶予するということもあるわけでございまして、いわゆる確定的な力を持つ処分ではない。(法務省刑事局長 安原 美穂:第71回国会 衆議院 法務委員会 第13号 昭和48年3月30日)
>検察官の不起訴処分と申しますものは、必ずしもいわゆる被疑者の無実を確定するものではない(法務省刑事局長 安原 美穂:第71回国会 衆議院 法務委員会 第13号 昭和48年3月30日)
上記の状態はその後変わっていない事は、前述の弁護士達作成の参照文献で分かる。
この法務委員会では、
大竹太郎代議士(自由民主党、弁護士、1905年 - 1987年)が、被疑者補償を刑事補償法の中に組み入れる事の検討を提案してもいる。
>憲法四十条の規定から見ますと、被疑者に対する補償というもの、これは規程として置くということも一つの見解かもしれませんけれども、最近の民主的なものの考え方とでも申しますか、そういうような面からいたしますと、この被疑者補償の問題もこの刑事補償法の中に規定を設けてやるべきでないかやというふうなことも考えられるわけでありますが、それに対して法務省の見解をお伺いしておきたいと思います。(自由民主党 代議士 大竹 太郎:第71回国会 衆議院 法務委員会 第13号 昭和48年3月30日)
これに対しての法務省刑事局長の答弁に、先の引用部分が含まれている。
すなわち、
- 不起訴は無実の確定ではない
- 検察官の不起訴処分の性格あるいは現行の刑事訴訟法が、不告不理の原則、検察官による公訴権の独占にあるため、検察官不起訴処分がすべて裁判所の当否の判断の対象になるのは大きな変革になりかねない
といった理由から、被疑者補償は刑事補償とは別枠にしている、というものであった。
さらに以下
第123回国会 参議院 法務委員会 第12号 平成4年6月2日からの引用は、刑事補償法の一部を改正する法律案及び少年の保護事件に係る補償を巡り議論が行われた部分である。
>検察官の不起訴処分には刑事裁判手続における無罪の裁判のように確定力がない(法務省刑事局長 濱 邦久:第123回国会 参議院 法務委員会 第12号 平成4年6月2日)
しかしながらこれについては様々な問題も指摘され続けている。
成人の被疑者補償については法では無く大臣訓令であるのに対し、少年の場合には「少年の保護事件に係る補償に関する法律」すなわち法律で補償が行われる違いがある事については、同委員会で
北村哲男参議院議員(日本社会党、弁護士、1938年 - )が問題提起している。
>すべての刑事裁判にかかった人たちが、少年も被疑者も被告人も同じように補償されるとなるならば、それはパラレルに考えていくのが当然の、いわゆる法の正当手続に乗った考えだと思いますので、やはり将来はそれについて検討すべき。(日本社会党 参議院議員 北村 哲男:第123回国会 参議院 法務委員会 第12号 平成4年6月2日)
2022年7月20日現在でも被疑者補償は、刑事補償法とは別の、被疑者補償規程という法務省訓令すなわち法務省の内部規定に基づき、検察官により決定されることとなっている(
被疑者補償規程/刑事告訴・告発支援センター)。
2008年12月18日には日弁連から被疑者補償法の制定を求める意見書が出されている(
(PDF)被疑者補償法の制定を求める意見書 2008年(平成20年)12月18日 日本弁護士連合会)。
弁護士のウェブサイトでも、「被疑者として20日間勾留され、会社を解雇された」といった場合でも、被疑者に対する補償は極めて薄いことが問題として述べられているケースもある(
お知らせ・ブログ|千葉県千葉市の弁護士事務所 法律事務所シリウス)。
すなわち、「不起訴処分は無実を意味するものではない」というのが、
被疑者の権利保障の観点からも様々な問題と議論を引き起こしつつ、放置されているというのが現状である。
現行制度がもたらす様々な問題についても、あまり世論は動いてはいないものの、議論は専門家の間で続いている。
様々な犯罪での不起訴が不可解と受け止められる事も多々ある昨今、不起訴処分制度自体の議論の必要性が増している。